「売れるはず」と信じて──メルカリせどり大失敗記

「せどり、やってみようと思うんだ」

ある日、コーヒー片手にYouTubeを見ていたとき、軽い気持ちでそう思った。きっかけは、チャンネル登録者数10万人を超える副業系YouTuberの動画だった。「メルカリで稼ぐ!初心者でも月10万円のせどり術」そんなタイトルに心が惹かれた。

動画では、リサイクルショップで1,000円で買ったブランド服が、メルカリで5,000円で売れたという成功体験が紹介されていた。画面越しの投稿者は笑顔で、「リスクが少ないし、誰でもできる」と断言していた。

「自分にもできそうじゃん」

思い立ったらすぐ行動。それが僕のいいところでもあり、悪いところでもある。すぐに近所の古着屋を巡り、せどり用の仕入れを開始した。

最初に狙ったのはアパレルだった。理由は単純。「服なら誰でも着るし、季節ものを選べば絶対に売れる」と思ったからだ。

僕は多少なりともファッションに詳しいと自負していた。大学時代はアパレル店でバイトもしていたし、トレンドにも敏感だった。リサイクルショップで目に付いたのは、有名ブランドのシャツやジャケット。定価なら2〜3万円する商品が、1,500円前後で売られていた。

「これは絶対にいける!」

そう確信し、1日で5万円分の仕入れをした。ちょっとした賭けではあったが、動画で紹介されていた「高回転・高利益」に期待を込めた。

さっそく家に帰り、綺麗にアイロンをかけて、ハンガーにかけて写真を撮った。商品説明も丁寧に書いた。「状態良好」「人気ブランド」「即購入OK」──売れる気しかしなかった。

最初の出品から1週間が過ぎた。

……売れない。

「まだ始めたばかりだし、仕方ないよな」

そう思って価格を少し下げてみたり、写真を撮り直してみたり、タイトルに「激安」や「値下げ中!」などの言葉を加えてみたり。いろいろ工夫した。

しかし、反応はほとんどなかった。いいねは付くものの、購入には至らない。1ヶ月が経ってようやく1点が売れたが、手数料と送料を差し引くと、利益はほぼゼロだった。

焦りが出てきた。

「おかしい、あんなにいい商品なのに」

一方で、部屋のクローゼットは仕入れた服でパンパンになっていた。季節は春から初夏に差しかかっており、冬物のジャケットは明らかに需要が落ちている。

「早く売らなきゃ……」

そう思えば思うほど、売れない現実に胃がキリキリした。

さらに追い打ちをかけたのが、送料の誤算だった。厚みや重量を甘く見ていたため、予定より高い送料がかかることも多々あった。梱包に使う資材もバカにならない。

「利益が出るどころか、損してないか……?」

手元のエクセルで損益を計算してみると、出品から2ヶ月で2万円以上の赤字だった。売れ残っている在庫はまだ4万円分以上。もう気持ちが折れかけていた。

最後は、まとめて古着屋に持ち込んだ。

査定結果を見て、目の前が真っ白になった。

「全部で……3,200円です」

……絶句。

仕入れに5万円使い、写真撮影や出品、梱包、発送、対応にかけた時間は100時間以上。最終的な回収額は、雀の涙だった。

家に帰る途中、コンビニで缶コーヒーを買って、ベンチに座った。なんだか全身の力が抜けて、ため息しか出なかった。

「どうして、こんなことに……」

後悔。自己嫌悪。自信喪失。

でも、その日を境に、少しずつ冷静になれた。

僕は「売れるはずだ」と思い込んでいた。でも、それは自分の価値観でしかなかった。市場のニーズを調べもせず、人気ブランドだから売れると思い込み、売れ筋や季節感を無視していた。

そして何より、「リスクが少ない」という言葉に惑わされ、リスクを見ようとしなかった。

YouTubeやブログには成功者の声があふれている。でも、そこには失敗者の声は少ない。きっと、僕と同じように在庫を抱えて苦しんだ人は他にもたくさんいるはずだ。

今は、せどりをやめて、違う副業に取り組んでいる。失敗を経て、学んだことは大きかった。

✔ 本当に売れる商品は、需要と供給を調べた上で見極めるべき

✔ トレンド、季節、サイズ、状態、そして販売チャネルとの相性を考えるべき

✔ 「利益」よりも先に「回転率」を意識すべき

✔ 見込みのない在庫を抱えることが、最大のリスクである

失敗はした。大きな損もした。

でも、何も得なかったわけじゃない。今後同じ過ちをしないための大きな教訓を得た。

副業は甘くない。けれど、自分の手で学び、改善していくことで、着実に前に進める。

次は、もう少し賢くなってみせる。

この失敗を、ただの「無駄な経験」にしないために。